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福岡家庭裁判所飯塚支部 昭和51年(少ハ)3号 決定 1976年4月26日

少年 N・O(昭三一・五・一生)

主文

少年を昭和五一年一〇月三一日まで特別少年院に継続して収容する。

理由

(本申請の理由)

少年は自殺要注意者、けんか、暴行の要注意者指定をされ、他の院生からあまり好かれないなど対人的に問題があるが、本人なりの努力は窺われ、成績は中位であつて、このままの成績で推移すれば四月下旬に退院させることも可能である。

実母は精神異常気味、実母の内夫は本来鳶職であるが、怠情で生活保護を受けて生計を立てている。少年は実母の内夫に全く馴じまず、実母を慕う気持は若干あるものの家庭そのものに親和感がなく、実母らは保護能力を欠如している。

少年を退院させる場合、保護会に帰住させるほかない(福岡市の○○寮で引受ける旨の回答を得ている)が、少年の雇傭安定等生計を考慮するときは、相当の保護観察期間を必要とするため、

六か月間の収容継続の申請をする。

(当裁判所の判断)

一  少年は、昭和五〇年五月二日当裁判所において窃盗、恐喝等の非行により特別少年院送致となつて、同月六日大分少年院に入院し、在院中は集団生活に充分には馴じまず、他の院生から嫌われる面があり、口論(少年は無抵抗)、暴行を受けるなど対人関係で問題はあつたものの少年なりに努力を重ね七月三日、二級上に、一〇月三〇日、一級下に昭和五一年二月五日、一級上にと順調に進級し、職補努力賞を二回、無事故賞を三回受け、まずまずの成績で本申請(昭和五一年二月一八日付)の後である昭和五一年四月一九日仮退院を許され福岡市の更生保護会○○寮に帰住し、同年五月一日その収容期間が満了となるものである。

二  本申請は専ら出院後の保護観察期間の延長のみを目的としており、このような目的の収容継続については現行少年保護法には規定はないけれども、およそ本人の犯罪性を認定するには本人の帰住先や受入れ態勢をも考慮すべきであり、従つて仮退院後の保護観察についても留意して収容継続の期間を定めることは許されると解するところ、この趣旨をおし進めるなら、前記の目的で収容を継続することは、それが本人の自由を不当に拘束するものでなく、かつ、本人の更生に必要と認められる場合にはその保護処分的性格に照らして肯認されるものと考える。また、収容継続の申請後仮退院して少年院に現に在院しない少年について保護観察に付する目的で収容を継続することが許されるかどうかは疑問はあるが、現に在院する者に対する保護観察目的の収容継続を肯認する以上、特にこれと結論を異にする理由はないと解する。

三  前記のとおり、少年の在院中の成績は概ね良好であるが、これは必ずしも、矯正教育により少年の犯罪性が除去された結果とも言い切れず、収容経験の長いことによる施設ずれ、要領のよさに基づく面もある。すなわち、少年は、中等少年院を仮退院して帰住した○穂○済○では更生の意欲を示し、仕事に励み、生活態度も安定しかけたように見受けられたが、祖父母宅への転居を許されると間もなく家出して不良交友を復活し、徒食の生活を送つたあげく再非行に及んだことに見られるように、一定の枠の中では従順で安定し得るが、規制がなくなると自己中心的な性格が表面に出て興味本位、気まぐれ、刹那的な行動をする傾向が強い。さらに少年は表情が暗くて生気がなく(このため自殺要注意者の指定を受けた)、「信用できる人間はいない」との対人不信観をもち、他人から誤解され易く、安定した誠実な人間関係を形成、維持しにくい面があり、この問題点は在院中も改善されなかつたようである。職歴としては左官手伝い、土方人夫、塗装工などがあるが、いずれも長続きしていない。少年自身は今後自動車運転免許を生かした仕事に就きたいと希望しており、弥生寮の紹介で近く就職先も決まりそうである。

少年の実母は内夫○川○夫と別れ、ノイローゼ発作もおさまつており、不安気ながら少年を引取りたいと少年に対する愛情を示すが、少年のために職を探したり、監護する自信はなく、予後は少年次第であるように述べており、少年が心配をかけたり、逆らつたりするとノイローゼ発作の起きる可能性も強い。ノイローゼ発作が起きた場合、祖父母に頼るしかないが、祖父母は少年の監護に自信がなく引取りに躊躇を感じている。

四  以上の少年の性格、行動傾向、職歴、実母、祖父母の監護能力、○穂○済○にいた間は安定しかけていたこと等の事情ならびに少年の非行歴に鑑みれば、少年を直ちに何の規制もない状態に置くことは少年の更生のために不適当であつて、仮退院後の保護観察の期間を延長して専門家の指導、監督の下で少年の日常生活、対人関係の安定を図り、職場に落ちつかせ、その間に実母の病気を刺激することなく、徐々に実母、祖父母との精神的交流をすすめ、家庭への受入れ準備をさせることが肝要であると認められ、このような措置は少年の自由に対する不当な拘束とはならないものと考える。

よつて、少年を六ヵ月間保護観察に付する目的で継続して収容することを相当と認め、少年院法一一条四項により主文のとおり決定する。

(裁判官 大串修)

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